魔女と妖精の世界〜英国ファンタジー文学〜

魔女と妖精の世界

ファンタジーがお好きな方は、魔女や妖精の登場する物語は外せないでしょう。ヨーロッパの国々には沢山の伝承や宗教的なお話があり、それを司る「見えないものたち」が登場します。 

特にイギリスのファンタジーには絶対に欠かせないと言うくらい、魔女や妖精が付きものです。シェークスピアの時代から現代の『ハリー・ポッター』まで、私たちを楽しませてくれる夢の世界の住人たち。

彼らはどうやって生まれ息づいていったのでしょうか。

 

 

魔女は本当に存在していた?

イギリスを含むヨーロッパの長い歴史の中で、「魔女」は大きく変容していきました。

 

元々は「魔法を使う女性」と言う認識で、ハーブなどで病気を治療したり、助産婦の役割をしたりと、主に医者に変わるようなことをしており、地域との関わりも密接だったようです。
しかし、キリスト教が台頭してきてから起こった宗教的理由により、15世紀から17世紀にかけてあの有名な「魔女狩り」が行われます。これは中世キリスト教会が異端者を「魔女」と称して迫害したことが始まりで、医術や占いによる悩み相談など、民衆の人気が高かった彼女たちを聖職者たちが悪者に仕立て、教会の権威を保つために始めたことでした。

黒い装飾と醜い曲がった大きな鼻の老婆が大鍋でトカゲを煮ている魔女のイメージは、この魔女狩りの歴史の中で創られたものだと言います。しかし実際には大鍋で煮ていたのは薬草であり、呪術を使わない「白い魔女」と呼ばれる魔女もいたのです。

しかし、白い魔女たちも民衆に信頼があったために同列とされ狩られました。「魔女狩り」はすっかり魔女たちを闇の存在へと追いやってしまったのです。

現代における魔女の存在

では現代では魔女と言う存在はすっかり消えてしまったのでしょうか。

イギリスでは1951年まで、「魔女禁止令」なるものが存在していました。魔術を違法に使用し十字架を冒涜したという罪です。ヘンリー八世が定めた1542年の魔術に関する法律を筆頭に、1951年に「詐欺的霊媒法」と言う法律に取り換えられるまで、時代を超えて「魔女禁止令」はあったのです。

 この「魔女禁止令」が解禁になると、ジェラルド・ガードナーと言う人物が魔女の宗教集団に接触したとし、「魔女宗教」を復活させる活動を起こします。

実際の「魔女宗教」は魔術とは異なり、シャーマニズムや神道と同列であると言われています。現在、欧米における魔女宗教の魔女たちは小人数の実践グループ、もしくは一人で活動しているようです。「魔女狩り」と言う強硬手段を取ってまでも、魔女を排除したかったキリスト教と同じく、宗教としての魔女が現代に生きているというのもなんだか皮肉なものです。

 

子供たちにとって妖精は異世界での最初の友達

妖精も魔女と同じく、古代ローマの時代から自然信仰や土地の伝承の中で生きています。 その姿は多岐にわたり、『ピーターパン』に登場してくるティンカーベルのように羽根を持って空中を飛ぶものや、ホビットのように小さな身体で森に暮らすもの、また動物や植物の姿だったり、湖など土地を護るものなど様々です。 

日本の妖怪などと同じようにその国や土地が望む姿形をしており、出会った人間に善い行いをしたり悪戯をしたり、時には命に関わる怖い目にもあわせます。いずれにしても、人間界とは異なった空間に彼らは住んでいます。
例えば、森に迷い込んで穴に落ちてしまって、気が付いたら小人に囲まれていたとか、知らない家の扉を開いたら、異世界へ通じていたというように。
そして元の世界へ戻るべく奮闘する主人公を助け、一緒に戦い、最後には唯一無二の親友になってくれるのが妖精たちなのです。

 

魔女や妖精が登場する物語が語るもの

イギリスのファンタジー小説は19世紀後半から盛んになりました。『不思議の国のアリス』を筆頭に『ホビットの冒険』や『指輪物語』など、現在でも親しまれている物語が誕生しています。同時にその頃のイギリスでは産業革命がおこり、労働者階級への選挙権拡大など、大きな政治的改革が起こりました。大人たちがその渦に巻き込まれて右往左往している間、子供たちを護ったのは他でもない妖精や魔女たちだったのです。

 物語の主人公たちのほとんどは最初の境遇があまり良くありません。ハリー・ポッターは両親を亡くし、親戚の家族に疎まれて階段下の小部屋に住んでいます。『ナルニア国物語』の勇敢な4人の子供たちは戦争で疎開しています。農場で叔父さん、叔母さんと暮らす『オズの魔法使い』のドロシーには、母親がいないようです。しかもあろうことか、竜巻に巻き込まれてしまいます。 

彼らは現実世界から異世界へ旅をし、その時代の中で家族との関係や、友情を知り、孤独を癒します。頼もしい妖精たちと冒険して怖い魔女と戦うことで、どんどん成長していくのです。

 

過去と未来への橋渡し

魔女と同じく、妖精も古代から息づいていました。だからこそ、彼らは物語の多くは過去の世界への導き手としての存在しています。

ここで最初の疑問に戻りましょう。

 

なぜイギリスには、妖精や魔女の物語が多いのか?

それはイギリスの風景が、彼らが住んでいた時代からほとんど変わらないからではないでしょうか。つまり、景色だけを見ていると時代を超えて変わらないものがあると私は思えるのです。 

荒野にたたずむエディンバラ城、幽霊が暗躍するロンドン塔やピーターパンが飛んできたビッグベン(時計塔)など、変わらぬ姿がそこにあり、今でも妖精や魔女たちが夜空を飛び回っているような外観があるのです。

迷い込んだその空間の先には未知の世界が待っていて、そこに必ず、妖精たちが悪戯っぽい顔で金の粉を撒いていたり、魔女が笑いながら手招きしている、そんな雰囲気をイギリスは持っている…。

今でもイギリスの荒野や森やロンドンの街の中で魔女や妖精たちは、みなさんが本のページが開く瞬間を待っています。 あなたも不思議な妖精や魔女たちと冒険の旅へ旅してみませんか?

 

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