東村アキコ先生は、『東京タラレバ娘』や『海月姫』などの大ヒット作を生んだ漫画家です。作品のジャンルは、少女漫画からギャグ漫画、エッセイまで多岐に渡ります。
今回は東村作品の中から「新たな挑戦をしてみよう!」と感じられるような漫画作品を、3つご紹介します。
©️東村アキコ/集英社
2022年より『Cocohana』(集英社)にて連載中。単行本は、7巻まで発売中。
(いずれも2025年5月現在)
岩下さとりは、カフェでアルバイトをして暮らす25歳。ある日、謎の着物美女・銀太郎さんからお手伝いを頼まれ、憧れの着物を着ることに。
さとりは着物を通じて、日本文化の奥深さにハマっていくのです。
東村アキコ先生の愛する着物が、ついに漫画のテーマになった作品です。“責任も伴うチャレンジングなこと”(1巻巻末マンガ)と先生が語る『銀おた』の魅力を紹介します。
主人公のさとりは、着物に興味はあるけれど知識はないキャラクター。そんなさとりが、日々着物を着て生活をする銀太郎さんに導かれ、和文化の世界を知っていきます。
“日本人なのになにも知らない私。でも知らないことが嫌じゃない。知らないことが嬉しい”(1巻1話)と思うさとり。知らなかった世界がどんどん色づき、魅力的に変わっていく際のきらめきが、作品の端々から伝わってきます。
銀太郎さんは季節にぴったりの着物をさらりと着こなし、出るべきところと控えるところをわきまえる、まさに「粋」を体現するような女性です。
「粋」とは何でしょうか。自分にとっての美しさやかっこ良さとは何か。和文化の美しさや、銀太郎さんの生き様は、物の見方や捉え方をアップデートするきっかけをくれるでしょう。
東村先生は子供の頃から着物が好きだったそうで、メディアでも着物姿をよく見かけます。ご自身が経験された感動や驚きが反映されているのか、実感がともなうようなシーンや、説得力のあるセリフが胸を打ちます。
©️東村アキコ/集英社
2015年より『Cocohana』(集英社)にて連載。第一部完となり、現在は休載中。単行本は、10巻まで発売中。
(いずれも2025年5月現在)
2020年に、中村倫也主演でドラマ化された。
美食家で私立探偵の明智五郎と、ワゴン車で弁当を売る小林苺。2人はタッグを組み、“マグダラのマリア”と名乗る女性が起こす犯罪に立ち向かいます。
明智五郎と聞いて思い浮かべるのは、江戸川乱歩の推理小説に登場する明智小五郎ではないでしょうか。関連性を持たせながらも、東村アキコ先生が生んだ新たな世界観を解説します。
トリックに驚かされる一方で、注目すべきは人を殺してしまう理由と人間関係です。
マグダラのマリアは、“殺人は強い者の手段じゃないわ。弱くて善良な人間の最後の手段なの”(9巻33話)と語り、弱者を救うために殺人を手伝っています。殺人事件の背景には、食べ物に関する許せない思いがあり、思わず共感する場面も。
一線を超える人と、踏みとどまる人の違いは何でしょうか。他の東村漫画に比べてギャグ要素は少なく、グロテスクな場面もありますが、従来のミステリーとは一味違う趣を味わえるでしょう。
©️東村アキコ/集英社
2012年から2015年まで『Cocohana』(集英社)にて連載。単行本全5巻発売中。
(いずれも2025年5月現在)
2025年5月16日に、実写映画版が公開予定。
東村アキコ先生が漫画家になるまでを描いた自叙伝的作品です。美大を目指して通った宮崎の絵画教室での経験や、恩師である日高先生との日々が描かれます。
東村アキコ先生が心にしまい続けてきた、過去の後悔や未熟さを、あえて振り返る渾身の作品です。多くの共感を呼んだ名作ですが、筆者が特に背中を押された2つの教えを紹介します。
描きたいものが見つからず、モラトリアムな時期を過ごしていた明子に、ただ「描け」と繰り返し伝える日高先生。東村先生が月に100ページ以上描きつつ、決して原稿を落とさないのは、絵画教室での経験があったからではないでしょうか。
スーパーマンのような東村先生に近づくために「とりあえずやれ」と、筆者にも日高先生の声が心に響いてきました。
竹刀を片手に「下手くそ!」と怒鳴る日高先生は、現代ではパワハラ教師という見方もできます。しかし、単にパワハラと片付けるには早計な気がするのです。
東村先生と日高先生の間にあったポジティブな要素はなんだったのか。ハラスメントにセンシティブな今、筆者は加害者にならないよう気をつけるだけでなく、お互いのよりよい関係性を模索するきっかけをもらいました。
東村アキコ作品の中でも、よりチャレンジングな作品を3つご紹介しました。特に『銀太郎さんお頼み申す』は現在連載中で、今後の展開がますます楽しみな作品です。
ぜひページをめくり、東村先生と共に、新たな一歩を踏み出すきっかけになれば、嬉しいです!