

『窓ぎわのトットちゃん』はトーク番組「徹子の部屋」でおなじみ、俳優・タレントの黒柳徹子さんが幼い頃を回想した、自伝的ストーリーです。
©︎黒柳徹子/講談社
絵本なども含めると国内で800万部、全世界で2,500万部を突破していて(2025年1月時点)「戦後最大のベストセラー」としてだれもが知る名著だといえるでしょう。
推薦図書になっていることも多く「小学生の頃に読んだ」という方も多いのではないでしょうか。ですが、実は子どもだけなく、大人になってからでも感動できる作品でもあるのです。
主人公の「トットちゃん」は徹子さんのあだ名。トットちゃんは落ち着きのない子で、小学校の先生を困らせてクビになってしまいます。途方に暮れたママが、トットちゃんを「トモエ学園」という学校に転校させるところから物語は始まります。トモエ学園で、トットちゃんが巻き起こす騒動が本作で描かれていくというわけです。
実は、筆者もトットちゃんと似たところがあります。幼稚園になじめず、毎日泣いてばかりでした。結局、トットちゃんと同じように幼稚園を中退しました……(退学、まではいきませんが)。
だから、トモエ学園でトットちゃんが生き生きと過ごす姿に共感を持って読みました。その共感があったからこそ、今までの人生で最も印象に残る一冊になったのです。
幼稚園や学校になじめないという経験を持つ人は、実は結構多いのではないでしょうか。これだけ多くの人に『窓ぎわのトットちゃん』が愛されているのは、自分の想い出と「トットちゃん」を重ね合わせるからなのかもしれません。
トットちゃんがトモエ学園で過ごす日々は、楽しいことも悲しいこともいろいろあって、キラキラと輝いています。例えば、トットちゃんの教室は古い電車を再利用したもの。普通の教室ではない場所で勉強するなんて、想像するだけでワクワクします。
『窓ぎわのトットちゃん』を大人になってから読むと、また違ったことが見えてきます。これこそ、子どもの頃に読んだという方にもぜひ再読をおすすめしたい理由です。
例えば、大人になって初めてわかるのが、トットちゃんのママの気持ち。トットちゃんの自由奔放な行動の陰で、ママは苦労して小学校を探したり、いろいろな騒動で困らされたりします。それでも、ママはトットちゃんの感性を大事にしています。
トットちゃんの自由奔放さも否定することはなく、とても愛情深く育てているのが読んでいて伝わってきます。そんな母と子の絆に感動するのです。
もうひとり大事な人物が、トモエ学園の校長先生である「小林先生」です。小林先生は子どもの気持ちをとてもよく考えてくれる人です。学校になじめなかったトットちゃんが、トモエ学園で想い出深い日々を送ることができたのは、小林先生の教育方針のおかげともいえるでしょう。
トモエ学園は日本で初めて「リトミック」を導入したことで知られていて、このことは作中でもくわしく描かれています。リトミックとは音楽を使った教育方法で、リズムを身体に覚えさせることで心の運転法を身につけさせるというものです。
落ち着きのないトットちゃんがトモエ学園に通い続けることができたのも、リトミックのおかげなのでしょう。トモエ学園での学校生活や小林先生との出会いがなければ、おそらく徹子さんが大人になってからNHK放送劇団に入ることもなく「徹子の部屋」の司会になることもなかったかもしれない。そう考えると、本当に奇跡のようなストーリーです。
重度の障がいを持つ子を積極的に受け入れたというのも、小林先生のすごいところです。戦時中に先進的な教育を行っていた学校が実際にあったという事実にも驚かされます。
作品を通して、著者・徹子さんが伝えたかったメッセージ。それは「平和の大切さ」です。物語が進むにつれて、戦争の影響が強くなり、トットちゃんが住む東京でも空襲が激しくなってきます。
戦争が日常に入り込んでくるという怖さが、トットちゃんという子どもの目から描かれていくのです。例えば、食事がわずかばかりの炒り豆だけになってしまうなど、戦争によって生活が変わっていく描写がとても身近で切実です。
「平和の大切さ」というメッセージが、すっと心に入ってくるように描かれているのも、この作品のすごいところといえるでしょう。
2023年に『窓ぎわのトットちゃん』が初めて劇場アニメとして映画化されました。
©黒柳徹子/2023映画「窓ぎわのトットちゃん」製作委員会
原作の雰囲気やメッセージをていねいに描写したアニメで、試写会で観た徹子さんも思わず涙したとか。こちらも原作同様に、ぜひ観ていただきたい作品です。
現在、Blu-ray&DVD化されているだけでなく、NetflixやU-NEXTで動画配信されています。
小林先生がトットちゃんにかけた「君は、本当は、いい子なんだよ」という言葉があります。小林先生はいつも誰かを困らせていたトットちゃんの優しい性格を理解していて、何度もこの言葉をかけていました。この言葉が徹子さんの心に一生残り『窓ぎわのトットちゃん』という作品として実を結ぶことになるのです。
誰かの一言が一生の宝物になる——。『窓ぎわのトットちゃん』は、そんな大切なことを教えてくれる、永遠の名作なのです。