

30代。社会人として経験を積み、責任も増え、周囲からは「そろそろ落ち着いて」なんて言われる歳。でも、心のどこかで「これでいいのかな…」とモヤモヤしていませんか?
20代の頃描いていた理想と現実のギャップに苦しみ、焦燥感や孤独感に苛まれる。そんな夜を過ごしている方もいるかもしれません。
かつての筆者もそうでした。仕事は順調だったものの、どこか満たされない気持ちを抱え、将来への不安に押しつぶされそうになっていました。そんな時、書店で偶然手に取ったのが『約束の川』でした。
©︎星野道夫/平凡社
著者は、写真家・星野道夫(ほしのみちお)さん。『約束の川』は星野道夫さんがアラスカで過ごした日々をつづったエッセイ集です。
アラスカの大自然を舞台に、野生動物やそこに暮らす人々の姿を温かい眼差しで捉えた写真家・星野さん。雄大な自然描写はもちろんのこと、星野さんの繊細な感性と深い洞察力に満ちた文章は、読む人の心を揺さぶり、人生を見つめ直すきっかけを与えてくれます。
今回は、『約束の川』と出会って筆者の人生がどのように変化したのか、具体的なエピソードを交えながらお話ししたいと思います。
16歳の夏。著者の星野さんはバスやヒッチハイクでアメリカ、メキシコ、カナダを一人で旅をしました。英語はほとんど話せずノープランの旅だったそうですが、“台本のない物語を生きるように新しい出来事を展開させた”と星野さんは語っています。
年齢を経ても変わらず行動力のある星野さんが、突然舞い降りるチャンスを逃すまいと飛び込んでいく様子が『約束の川』で描かれています。その大胆さと一途さが「私も新しいことにチャレンジしよう」という気持ちにさせてくれました。
元々星空を見るのが好きだった筆者ですが、都会のぼんやりした夜空に慣れ、いつしか空を見上げることもなくなっていました。しかし『約束の川』を読んだあと、どうしようもなく満天の星空が見たくなり、本を読んだ翌月には長野県の阿智村を訪れていました。
長野県の阿智村は日本一の星空ツアーができると有名な場所です。春でも凍える寒さの山頂で、都会では絶対に見ることのできない満天の星空を眺めることができます。
思わず息を止めてしまうほど、たくさんの星が浮かんでいました。星を見上げながら「いつか必ずアラスカに行こう」と決心しました。今は旅行資金を貯めるために、がんばっています。
星野さんはクジラが潮を吹く姿や、ブリザードのなかのカリブーの群れ、オーロラの輝きはアラスカだからこそ体験の素晴らしさだけでなく、身近なものに対する大切さにもしっかりと目を向けています。
一羽の小鳥のさえずり、たき火のはじける音、ランタンの灯とともに飲む熱いコーヒー、土の香りなど。
一方、筆者は仕事に追われて、自然に触れるどころか歩くときにうつむいて、地面しか見ずに家と仕事場の往復ばかり。休みの日は家の中でぼんやりと過ごし、理由もわからず孤独感を不安を感じて涙を流していたときもありました。
筆者はこの本に触発されて、思い立ってデイキャンプをしてみました。肌寒い時期だったので、たき火のそばに腰かけ、冷たい風を胸の中いっぱいに吸い込みました。太陽の光を浴び、落ち葉が擦れあう音を聞きながら風を感じると、不思議と心が軽くなっていきました。
友人や家族と過ごす人ばかりがいるキャンプ場の中で、私はひとりでした。が、漠然とした孤独感は消え、ずっと会っていない友人のことを思い浮かべていました。
星野さんが、ひとりでゆったりと過ごす時間の豊かさを教えてくれたのです。
1996年8月、星野さんはテントで寝ているところをヒグマに襲われ急逝しました。享年43歳という若さでした。
厳しい世界の中で精一杯、人生を楽しんでまっとうした彼の天寿は「人生は有限であること」「今を生きることの大切さ」を改めて突きつけます。
「明日やろう」ではなく、「今、この瞬間を大切に生きよう」。星野さんの言葉は、読者たちに語りかけているようです。
30代は、人生における大きな転換期。仕事、結婚、子育て……様々な変化が起こり、迷いや不安を感じることも多いでしょう。
そんな時こそ『約束の川』を読んでみてください。きっと、あなた自身の「約束の川」を見つけ、新たな一歩を踏み出す勇気をもらえるはずです。
星野さんはエッセイの中でこう綴っています。
“一年に一度、名残惜しく過ぎゆくものに、この世で何度めぐり合えるのかその回数をかぞえるほど、人の一生の短さを知ることはないのかもしれない”
この本が人生の羅針盤となり、あなたをより豊かな未来へと導いてくれることを願っています。