テレビはもう需要がない時代、テレビの保有率も低下。そのように言われて久しくなりました。
しかし、テレビドラマに絞って歴史を遡ってみると、最高視聴率が信じられない数字になったものがあり、限られた枠で制作されるドラマの発祥はテレビだと感じさせられます。当時は観たことがない世代の人にも、刺さる内容が多い時代です。登場人物の年齢や背負っているものの重さなど、設定やストーリー面で感情移入できるものが多くあります。
機会があれば観ていただきたい作品を紹介します。なぜヒットしたのかなど、当時の世相などに絡めて考察してみます。
まずは、民放で高視聴率を記録した、いくつかのドラマ、そしていろいろな意味で話題となり社会現象を巻き起こしたといえる作品を挙げます。
1クールの作品が主になっていますが、1年間の半分もない期間に、高視聴率を記録し、流行語が出たり家族で議論になったりしているドラマ作品をピックアップしてみました。
テレビドラマが娯楽の中で重要な立ち位置に合った時代は、連続ドラマが強かったといえます。
たとえば、単なる高視聴率という面でなら、刑事ドラマとして長く続いた『太陽にほえろ!』や、お茶の間で一度は流れたのではといえる『水戸黄門』などが、もっと高い数字を出していて、それぞれ最高視聴率は40%を超えました。
どちらも、お茶の間で決まった曜日と時間に楽しむ、週に一度の娯楽だったといえます。名前は知らない人はいないかもしれないくらい続いた連続ドラマシリーズです。長期戦で不動の座を確立したドラマたちといえるかもしれません。
ピックアップした「1クールで高視聴率を勝ち取ったドラマ作品」のどの要素が、話題となり社会現象を起こしたとまでいわれるのか、チェックしてみましょう。
当時社会が抱えていた問題をモチーフにしたり、出演者が意外な面を見せる役を演じたりするなど、世相や視聴者の願望ともつながりが深いといえます。
感情移入、また自己投影をしやすく、こうなったらいいなと感じるドラマはヒットしたことが多いようですね。
学園ドラマ、教師ドラマは金八先生シリーズが有名ですが、教師ドラマの先駆けともいえる作品『熱中時代』は、等身大の子どもたちと、ちょっと暑苦しく感じる昭和の新米教師を水谷豊さんが演じるドラマです。
©︎日本テレビ
小学生に真剣に、そして熱く向き合う若い新米教師の姿は、昭和50年代前半、大ヒット作品となる要素でした。
各家庭で、小学生の子が受け止めるには重い問題も浮き彫りになります。文房具を丁寧に使いながら、親の内職を手伝う子もいて、考えさせられるシーンも多くあり、ドラマだからと裕福で問題がない子どもばかりではない設定は身近でした。
このドラマが放送された1979年頃は、ユネスコが宣言した国際児童年です。日本は比較的裕福で平和といえますが、子どもたちが抱えるいろいろな問題をモチーフにしたドラマが人気となったのは、国際児童年にマッチしていますね。
俳優・穂積隆信さんのご家庭に起きた出来事をノンフィクション書籍にまとめた内容がドラマ化された『積木くずし』も、親と子の感想が分かれがちだった作品です。一人娘の非行化、プロのアドバイスで娘に向き合う両親、長い親子戦争から家庭が修復されていくまでのドラマは、社会現象につながりました。
中高生の非行が社会問題になり、親や学校の声が社会で取り上げられがちだった頃で、親と子の受け止め方は違う家庭が多く、その意味で親子戦争を巻き起こしました。
「あんなドラマを観るから口答えする」と怒る親、娘の気持ちがわかると思ってしまう思春期世代など、親も子も自分に置き換えたといえそうですね。主演女優のスキャンダルも起きて話題が尽きないドラマでした。
日曜劇場の『ビューティフルライフ〜ふたりでいた日々〜』(2000年)は、若い世代の自己投影でもあり願望でもある人物像や恋愛がモチーフです。
©︎TBS
難病で車椅子生活ながら屈託なく親近感あるヒロインを常盤貴子さんが、若い美容師を木村拓哉さんが演じました。ヒロインの他界という結末で、悲恋に終わったといえるかもしれません。
周囲の人々の温かさや協力で最後まで通した恋愛と、美容師のその後が印象的なドラマで、このような前向きな考え、生き方をしたいと感じた人も多いようですね。
高視聴率を記録すると同時に、流行語を生みだしたドラマも印象的です。
『ずっとあなたが好きだった』(1992年)は、メインの登場人物である、マザコン男の「冬彦さん」がよく使われるようになりました。「こんな男、財力や才能があっても嫌だな」と思わせる佐野史郎さんの怪演が、功を奏したといえます。
©︎TBS
嫁姑関係や夫との関係を、昔のドラマのような「耐える女」を貫くのではありません。女性が自立していくこと、息子溺愛の異質さなどが新鮮に感じられる作品になりました。
バブル崩壊後でもあり、社会は大きく変化していた時代です。作中の「冬彦さん」は、ねちっこくヒロインを束縛し、かつマザコンでありながら、昔からヒロインだけが好きだった純愛の一面もあったというラストも、意外性があったのです。
『家なき子』(1994年)では、年代や性別、仕事や学年という属性無関係で使える「同情するなら金をくれ」が流行語になりました。1992年、平成初期の放送から、令和に時代が移った今も残っている、ロングヒット的な流行語ですね。
何かあれば冗談めかして「同情するなら……」を使える場面が多く、主演の安達祐実さんが子役として悪態気味に吐く言葉は、ドラマを観たことがない人でも使いたくなります。
子どもは子どもらしい内容でという定番から脱し、様変わりするバブル崩壊後の社会、貧富の格差を浮き彫りにした形になりました。小学生の主人公が、逆境の中でも母思いで、出会った人との刺激を受けつつ愛犬を支えに生き抜き、味方であった意外な人の大きな裏切りというクライマックスもあるドラマは、目が離せないものでした。
祖父母の時代から観られているドラマ、その上で視聴率が高い『水戸黄門』シリーズなどがあります。
他にも、NHKでは明治後期から昭和にかけて少女から高齢になるまでのひとりの女性の生きざまを描き、大根めしが有名になった『おしん』が、他作品の追随を許さない高視聴率を打ち出しました。
民放で1クールから4クール程度までの高視聴率作品を取り上げましたが、昭和から平成初期、テレビや映画館でしかドラマを楽しめない頃には、今も語り継がれる名作ドラマが多く生み出されたのです。
気になる作品があり、観る機会があれば、ぜひ楽しんでみてくださいね。