日本発祥の駅伝は、長距離を複数の区間に分けてたすきを繋ぎ、ゴールを目指す競技です。1917年の『東京奠都五十年奉祝 東海道五十三次駅伝競走』から始まり、『ニューイヤー駅伝』や『箱根駅伝』は正月の風物詩として多くの人に親しまれています。
駅伝は、単なる速さだけでなく選手たちの精神力やチームワーク、コース戦略で1分1秒を縮める熱い戦いがの見どころになっています。
ここでは、駅伝をテーマにした『風が強く吹いている』と『かなたかける』を紹介します。
©三浦しをん(新潮社刊)
直木賞作家で数々のベストセラーを生み出した三浦しをんが描く、箱根駅伝を目指す10人の姿を描いた青春小説。
小説を読むのは苦手という方でも漫画、アニメ、実写映画、舞台など様々なメディアで描かれているので、気軽に楽しむことができる作品になっています
天才ランナーだったものの、過去の出来事が原因で走ることを諦めていた大学生・蔵原走(カケル)が、奇妙な縁で清瀬灰二(ハイジ)に見染められ、寛政大学の学生寮に住むことに。
灰二は密かに寛政大学陸上部を復活させ、箱根駅伝に挑むという夢を抱いており、カケルを含めた10人はその夢に巻き込まれる形で箱根駅伝を目指すことになります。
©三浦しをん・新潮社/寛政大学陸上競技部後援会
明るくみんなを纏めるリーダーの灰二、才能を持ちながら陸上と距離を置いていた走を始め、バラバラの個性を持ったメンバーが揃っており、いつのまにか応援したくなるような魅力を持っています。
素人集団10人が箱根駅伝という学生陸上でも最高峰の大会を目指すという設定は現実離れしたものですが、明るくテンポよく進むストーリーと魅力あるキャラクターたちのひたむきさでどんどんと引き込まれていきます。
三浦しをんさんの表現は、簡潔でありながら美しく、登場人物の心情を的確に映し出しています。印象的なフレーズが散りばめられており、思わず付箋を貼りたくなる場面がたくさんあります。
特に物語後半の駅伝シーンでは、10人の思いが凝縮されていて、何度も読み返したくなるほど心に響きます。また、一人で走るツラさ、仲間への思いや葛藤など様々な気持ちが読者の心に直接訴えかけてきます。
アニメは『ハイキュー!!』や『新テニスの王子様』、『黒子のバスケ』などスポーツ作品を多数手がけている『Production I.G』が制作しています。
駅伝のスピード感や緊張感がしっかりと描かれ、原作ファンも満足できる仕上がりになっています
陸上未経験のメンバーも居るため、非常に丁寧に箱根駅伝について説明がされています。箱根駅伝に出場するための予選会は“魔物がいる“と言われるほど、大番狂わせがあり、強豪校でも落選するほど、厳しいものになっていて、本選までにも多くのドラマがあることが丁寧に描かれています。
本編でも予選会シーンは非常にドラマティックなものになっており、バラバラ当初は半強制的に練習をやらされ、しょうがなく付き合っていたメンバーが、いつしか自分自身のため・仲間のために限界を超えて走る姿は、グッときます。
全10区に分かれているコースも区間ごとに特徴があり、選手の個性を見極めて配置しなければならず、レース前にしっかりと戦略を立てなければなりません。エースランナーが集う『花の2区』、『天下の険』と呼ばれる最も苦しい5区など、それぞれに特徴を持っており、様々な駆け引きが行われています。
それぞれの個性を活かして、託された区間を懸命に走り、仲間を信じ、襷をつなぐ姿がしっかりとかかれて駅伝の魅力を余すことなく伝えています。
クライマックスはこれまでに積み重ねてきたものが身を結ぶ非常に熱いシーンになっているので、スポーツものが好きな人はどの媒体でもいいので、見ていただきたいです。
作品に触れるだけで『1秒』の重みを感じることができ、『箱根駅伝』を何倍も楽しむことができるでしょう。
©高橋しん(小学館刊)
駅伝という競技を軸にしつつ、小学生たちが成長していく姿を描いています。温かみを感じる画風と、思春期の少年少女たちの気持ちを丁寧に描写している作品です。
箱根駅伝10区を実際に走った経験を持つ著者が描く、スポーツ漫画です。
小学校6年生のかなたが、東京から自然豊かな箱根に引っ越してきたことから物語は始まります。
毎日バスを使わずに走って登校を続けるかなたは、周囲から変わった目で見られていました。その姿に興味を持った同じクラスメイトたちは、マラソンを通して心を通わせていき、町内駅伝大会に出場することになります。
この作品を語る上で外せないのが、著者・高橋しん先生の経歴です。高橋先生は中学から陸上競技を本格的に始め、山梨学院大学時代には実際に箱根駅伝に出場した経験を持っています。
自身の経験に裏打ちされたリアルな描写と、走る者の心理を巧みに表現しており、駅伝という競技の魅力を感じることができます。
駅伝を題材にしながらも、競技そのものだけでなく、登場人物たちの成長や人間関係の変化を描いている点です。
小学生編では、未熟で不器用な主人公たちが、自分たちの殻を破りながら成長していく姿が瑞々しく描かれています。これが中学生編に進むと、物語の厚みが増し、スポーツ漫画としての本格度も高まっていきます。
中学生編からは、駅伝におけるチームワークや葛藤、個々のドラマが重層的に描かれており、どんどんと物語に引き込まれていくでしょう。
高橋先生ならではの、陸上競技に関する知識やトレーニング描写も随所に織り交ぜられており、競技者目線でも楽しめる作品です。
著者の代表作でドラマ化もされた『いいひと。』でも底抜けに人がよく、やさしい主人公に影響されて、周囲の人間が徐々に変わっていく様子が描かれていました。
今作の主人公であるかなたのまっすぐにひたむきに走る姿は周囲に影響を与え、様々な変化を起こしていきます。
知らないままだと、駅伝は長時間同じようなシーンが続く退屈な競技に感じる方も多いでしょう。しかし、一度知ってしまうと、ほかのスポーツにはない駆け引きやドラマを感じることができます。
年始に向けて、これらの作品を手に取ってみるのはいかがでしょうか。
きっと、駅伝への新たな興味が湧くはずです。