令和も愛され続ける『サザエさん』 人気の秘訣と歴史を紹介

令和も愛され続ける『サザエさん』 人気の秘訣と歴史を紹介

1969年の放送開始以来、古き良き大家族の日常を描いてお茶の間の支持を集め続ける『サザエさん』。平成から令和へ年号が移り変わった今も、その国民的人気は衰えることを知りません。

今回は長谷川町子が生み出した名作アニメ、『サザエさん』の歴史をご紹介していきます。

はじまりは戦後 アニメ化は70年代

©︎株式会社エイケン

長谷川町子は三姉妹の次女として生まれ、両親を含めた五人家族の中で育ちました。子供の頃はサザエさんのようなおてんば娘で、カツオのようによく叱られていたと言います。

小学校卒業から数年後、父・勇吉が他界。父を慕っていた町子は「短気な性格を受け継いだ」とのちに回想しており、磯野家の大黒柱・波平のモデルが勇吉だったとほのめかされます。

終戦の翌年に当たる1946年(昭和21年) 、福岡の地方新聞「夕刊フクニチ」が長谷川町子に四コマ漫画の連載を依頼。そして始まったのが『サザエさん』でした。

サザエさんは昭和のファッションリーダーだった

「夕刊フクニチ」でスタートした『サザエさん』はたちまち話題になりました。特に主婦層の人気を集めます。

彼女たちが注目したのはサザエさんのユニークなコーディネート。最先端の洋服に身を包んだサザエさんは、昭和のファッションリーダーと言っても過言ではありません。

細くウエストを絞り、そこから流れるようにスカートを広げたニュー・ルックが50年代に流行すると、早速これを取り入れています。ポルカ・ドット柄のカンカン帽にスカーフと長手袋の組み合わせは、新聞社で働いていた長谷川町子のセンスの良さをうかがわせました。

1951年には「朝日新聞」朝刊に移籍、それから18年後の1969年にフジテレビでアニメ化。この頃からカラーテレビが普及し始め、家族全員がお茶の間に集まり、テレビを見る習慣ができました。

結論から述べれば、『サザエさん』は家族団らんの場に相応しいアニメでした。
人が死んだり殺されたりする物騒な事件と無縁の『サザエさん』は、子供から大人まで安心して楽しめるドタバタホームコメディとして、すんなりお茶の間に受け入れられたのです。

登場人物を身近に感じられたのも成功要因。我々が日頃やらかしがちな失敗や勘違い、それらが巻き起こす町内の騒動を描いた『サザエさん』は、あるあるネタの宝庫でした。

この共感こそ『サザエさん』の強み。視聴者はテレビを通してサザエさんの日常を見守り、磯野一家やご近所さんの体験を自分事に落とし込みます。
そうすることで彼等を他人とは思えなくなり、ちょっとそこまで出かける気持ちで『サザエさん』にチャンネルを合わせてしまうのです。

2024年にはアニメ放送55年目に突入し、世界で最も長く続いているアニメとしてギネスに登録されました。まさしく『サザエさん』は一億総中流時代をむかえた、全日本人の隣人なのです。

お茶の間と共に半世紀を歩んだ『サザエさん』の魅力

本作最大の特徴は、東京の下町に暮らす磯野一家の日常を描いたショートアニメであること。

カミナリ名物の頑固おやじ波平、内助の功で家庭を支える良妻フネ、ドジでおっちょこちょいな長女サザエと婿養子のマスオ、わんぱく坊 主な長男カツオと心優しい次女ワカメ、最年少はサザエとマスオの息子のタラちゃん……。

個性派ぞろいの磯野家では大なり小なりハプニングが相次ぎ、それに振り回されるキャラの様子や、思いがけない顛末が笑いを誘います。

その時代のトレンドや価値観の変遷が盛り込まれているのも『サザエさん』の見所。

1969年の放送時には「カラーで放送しています」とサザエが冒頭で宣言。1970年には、磯野一家が大阪万博を見学するエピソード『サザエ 万博へ行く』が公開されました。
令和の現在は、スマートフォンやYouTuber、ウーバーイーツやSNSが作中に登場。他にも、波平の拳骨シーンが大幅に削減されるなど、視聴者の生活様式や考え方の変化に伴い、逐次アップデートを行ってきました。

なお磯野家の風呂は当初木造でした。近代風に改装されたのは1973年です。

©︎株式会社エイケン

片やサンダルで買い物に行くサザエ、割烹着に身を包み夕飯の支度をするフネ、会社帰りに同僚と飲みに行くマスオなど、連載当初から引き継がれてきたルーティーンは変わっていません。

世相に合わせて改めるべきところは改め、変えなくてもいいところはそのまま生かす柔軟性こそ、『サザエさん』が日本の戦後史に紐付いて愛されてきた理由なのではないでしょうか。

YouTuberにせよウーバーイーツにせよ、『サザエさん』に取り上げられること自体が、世間一般の認知度の指標になっているのは面白いですね。

ステレオタイプなんて言わせない 『サザエさん』の安心感

令和の現在、共働きの家庭は少なくありません。少子高齢化の影響で専業主婦は激減し、子供は平均一人か二人の核家族が主流になりました。

故に、視聴者は『サザエさん』の世界にノスタルジーを禁じ得ません。

団塊世代にとっては失われた昭和の象徴、平成生まれの人間にとってはフィクションでしか知らない大家族の理想形。それが『サザエさん』が愛され続ける理由なのです。