小中学生のとき、図書室や学級文庫で見かけた「児童文学」。大人になって読み返してみると、懐かしくも色褪せない魅力がたくさん詰まっていることがわかる。
心躍るファンタジー作品を筆頭に、非日常な世界を体験できるミステリー作品や、少年少女が活躍する冒険譚までジャンルは多種多様。
そして、児童文学には今もなお世代を超えて愛される名作が数多く存在しており、大人になった読者たちを育んだ原点とも言える作品もあるだろう。
この記事では、そんな「あの頃読んでた」懐かしい児童文学を振り返りながら、その魅力を深掘りしていく。
児童文学のなかでも、特に小中学生たちにとって思い入れ深い作品と言えるのが、同年代の少年少女が物語に登場する作品だ。
歳の変わらない主人公たちが、世界を旅したり、大人たちに立ち向かっていったり、自分たちと同じ目線で進んでいくストーリーに魅力を感じた人も多いのではないか。
たとえば、講談社から刊行されている児童向けの文庫シリーズ『青い鳥文庫』では、『黒魔女さんが通る!!』や『若女将は小学生!』など、小学生の女の子が主人公の作品が多くある。
『黒魔女さんが通る!!』は小学5年生の黒鳥千代子(通称チョコ)が、黒魔女のギュービッドと黒魔法の修行をしながら、クラスメイトたちが引き起こす騒動を魔法で解決するドタバタコメディ。
©︎講談社 / 石崎洋司
個性豊かなキャラクターたちが過ごす日常と、子ども心をくすぐるファンタジー設定のバランスが魅力的で、シリーズ累計400万部を超える人気シリーズとなっている。
また、『若女将は小学生!』は小学6年生の関織子(通称おっこ)が、旅館「春の屋」で若女将として修行を始め、様々なできごとや人々との出会いを通じて成長していく物語だ。
©︎講談社 / 令丈ヒロ子
2018年にはTVアニメシリーズがテレビ東京系列で放映され、同年には劇場アニメ化されるなど、2013年にシリーズが完結してからも多くのファンからの支持を得ていることがわかる。
両作品とも魅力的なイラストが文章の途中で挿入されていて、登場人物たちの姿や物語内の世界を想像しやすく、小学生にとってもスラスラと読み進められるアイディアが随所に凝らされていた。
児童文学のシリーズには、日常とファンタジーを融合させた作品のほかにも、子どもの好奇心を刺激する謎解き作品も多く刊行されている。
特に、前述の『青い鳥文庫』から刊行されている『名探偵夢水清志郎事件ノート』は、多くのミステリーファンから愛される、はやみねかおるの人気シリーズだ。
©︎講談社 / はやみねかおる
中学1年生の姉妹たちが自称名探偵の夢水清志郎とともに、現実に出会う不可思議な事件を解決しながら成長していく物語で、ジュブナイルミステリーの金字塔とも呼ばれている作品。
ずばぬけた推理力を持ちながらも、極度の物忘れと生活力のなさを露呈する夢水清志郎を筆頭に、多くの個性的なキャラクターが登場するなど、非日常な世界観のなかにクスッと笑ってしまうような描写も忘れない。
さらに、同じくはやみねかおるが描く人気作品『都会のトム&ソーヤ』は、中学生の内藤内人と竜王創也のコンビが、最強のゲームクリエイターを目指して都会を駆け巡るストーリー。
©︎講談社 / はやみねかおる
学校きっての秀才でありながら、巨大企業「竜王グループ」の御曹司でもある創也と、人並外れたサバイバル能力を有する内人のふたりによる「究極のゲーム」を巡る冒険に、子どもたちが目を輝かせるのも無理はない。
現実では体験できないような不思議な事件が巻き起こる世界で、同年代の少年少女が活躍する作品たちは、まるで自分自身がその世界に紛れこんだような気分をもたらしてくれるのだ。
児童文学のなかには、異世界の雰囲気を楽しめる海外ファンタジーも数多く存在している。
魔法やモンスターが登場したり、神話がモチーフとなっていたり、子ども心をくすぐる海外のファンタジー小説は、これまでも異世界にあこがれる小中学生を虜にしてきた。
特に、エミリー・ロッダ作の冒険ファンタジー『デルトラ・クエスト』は、キラキラとした光沢のある表紙と、禍々しい怪物たちが映るイラストに当時、興味をそそられた人も多いのではないか。
©︎岩崎書店 / エミリー・ロッダ作 岡田好惠訳
影の大王によって魔境に隠された、デルトラ王国に伝わる7つの宝石を取りかえすために、鍛冶屋の息子リーフが仲間とともに旅をする王道のファンタジー小説で、魔法やアイテムが登場する物語の世界観と細部まで作り込まれた舞台設定が魅力的。
2007年にはテレビ東京系列にてアニメ化されており、魔境の番人たちに立ち向かう登場人物たちの勇姿に、ドキドキとワクワクで胸を高鳴らせた思い出が蘇る人もいるだろう。
海外の児童文学には、日本の児童文学とは一風違った異国の文化を感じられる作品も多くあるので、ぜひ読み比べながら物語の世界を体感してほしい。
児童文学は、子どものころあこがれた非日常に足を踏み入れることのできる物語であり、小説を読む楽しさを教えてくれる入り口にもなっている。
少年少女たちの等身大の気持ちが色濃く反映されており、彼らの成長とともに、まるで物語の住人のように世界を追体験することができることも魅力のひとつだ。
あらためて懐かしく感じた読者のかたは、あの頃読んでいた児童文学をもう一度、手にとってみてほしい。