日本国内で再び注目を集めている「シティポップ」。その人気は国内だけにとどまらず、海外のDJシーンにおいても昭和のシティポップが評価され、一部楽曲が有名アーティストによってサンプリングされたことも話題となった。
さらに、過去の楽曲がたびたびリバイバルヒットを記録するなど、昭和のシティポップは令和の時代にも幅広い層から受け入れられている。
では、なぜ現代において、昭和のシティポップが流行しているのだろうか?
もともとシティポップと呼ばれる音楽ジャンルに明確な定義はないが、音楽としては浮遊感のある爽やかなサウンドのなかに、歌謡曲のようなメロディと都会へのあこがれを投影した歌詞が存在しているのが特徴的。
シティポップの歴史は1970年代にまで遡り、1960年代のアメリカンポップスを源流としながらも、さまざまな音楽ジャンルを含んだ日本のなかで独自の進化を遂げており、1970年〜80年代の音楽シーンを牽引する存在となった。
そんなシティポップの先駆けとなったのが、日本語ロックの元祖とも呼べるバンド「はっぴいえんど」のメンバーである大滝詠一によってプロデュースされた「シュガー・ベイブ」のアルバム『SONGS』だと言われている。
山下達郎や大貫妙子など、のちの日本の音楽シーンで頭角を現していくことになる名だたるアーティストが関わった『SONGS』は、1970年以降のシティポップを象徴する存在となった。
『SONGS』
©︎シュガー・ベイブ/ナイアガラ・レーベル.
さらに、大滝詠一によって1981年にリリースされたアルバム『A LONG VACATION』は、当時、100万枚以上のヒットを記録するなど、高度経済成長の真っただ中を生きる日本人にも好まれている。
特に『A LONG VACATION』に収録されている『君は天然色』は、2021年に大滝詠一のデビュー40周年を記念して制作されたミュージックビデオが公開され、2,000万回を超える再生回数を記録している。(2024年9月現在)
多くの名曲を生み出して一時代を築いたシティポップだが、バブル崩壊をきっかけとした不況とともに、徐々にその人気に陰りが見えはじめる。
そんなシティポップが再び、脚光を浴びたのが2010年代後半。なんとYouTubeに非公式で挙げられていた竹内まりやの『プラスティック・ラブ』が、海外の音楽リスナーからの支持を集めて、空前のリバイバルヒットを果たしたのだ。
『プラスティック・ラブ』/『VARIETY』収録
©︎竹内まりや/ワーナーミュージック・ジャパン
実際、2022年に竹内まりやの公式YouTubeチャンネルにて、正式に公開された『プラスティック・ラブ』のミュージックビデオは、すでに4500万回を越える再生回数を誇っており、その人気の高さがうかがえる。(2024年9月現在)
さらに昭和のシティポップは、当時の若手アーティストたちにも大きな影響を与えており、時代に合わせて進化した次世代の「ネオ・シティポップ」と呼ばれる、ひとつの音楽カテゴリにまで拡大していく。
そんなネオ・シティポップの筆頭ともいえるSuchmosやYogee New Wavesなどは、洗練された都会的なサウンドのなかにも、肩の力を抜いて楽しめるゆったりとした空気感が流れており、シティポップの魅力を十二分に引き出していることがわかる。
このように、影響を受けた若手アーティストの台頭と少しの偶然が重なり、シティポップは日本の音楽シーンに再上陸することとなったのだ。
国内外を問わず、再び人気を集めたシティポップ。さらに驚くことに、令和のZ世代にもシティポップはすんなりと受け入れられている。
TikTokでは、先述の『プラスティック・ラブ』や松原みきの『真夜中のドア〜Stay with me〜』がたびたび使用され、太田裕美の『木綿のハンカチーフ』は人気俳優によってカバーされるなど、若者世代にとっても馴染み深いものとなっていた。
『真夜中のドア~stay with me』/『プラチナムベスト 松原みき』収録
©︎松原みき/ポニーキャニオン
昭和のシティポップが再流行した理由として考えられるのが、普遍的なオシャレさをもつサウンドと、若者のチル文化に自然と溶け込む相性の良さ。
もともと忙しない日々のなかで、都会へのあこがれをノスタルジックに歌い上げたシティポップの核となる部分は、ゆったりとした時間を大切にする「チル」文化にも受け継がれている。
さらに、シティポップは時代に固執することなく、ありのままの心象風景を描いた歌詞が多く、あらためて令和の時代に聴いても古くささを感じさせない。
だからこそ、リラックスして会話を楽しむ空間のBGMや、チルな時間に自然と寄り添う音楽として、シティポップは令和の時代にも違和感なく溶けこむことができたのだ。
この記事では、シティポップの歴史を振り返りながら、令和の時代にリバイバルヒットした理由を考察した。
シティポップとは、海外のアメリカンポップスを源流としながらも、日本で独自の進化を遂げたジャンルであり、時代にとらわれず普遍的に受け入れられる音楽だと言える。
そして、過去の楽曲はもちろん、今も新しく生み出されている楽曲にも昭和のシティポップは息づいているはずだ。
過去のシティポップを掘り起こして聴きかえしながら、ぜひ、今も流行する音楽との関係性にも注目してほしい。