映画を愛する異才漫画家、藤本タツキ先生の魅力を徹底解説!

© 藤本タツキ/集英社・MAPPA

『週刊少年ジャンプ』にて『チェンソーマン』を連載し、現在は『ジャンプ+』にて『チェンソーマン』第2部を執筆している藤本タツキ先生。『チェンソーマン レゼ編』と『ルックバック』の劇場公開も決定し、ファンの盛り上がりは過熱する一方。

今回はシネフィル漫画家・藤本タツキ先生の、中毒性のある魅力をご紹介していきます。

 

 

『チェンソーマン』

©️藤本タツキ/集英社

 

パロディたくさん!止まらない映画愛

 

藤本タツキ先生は大の映画好きであり、名作・B級問わず、数多くの映画のパロディを取り入れています。

単行本の折り返しでは毎回“〇〇(映画タイトル)大好き!”(藤本タツキ)とコメント。

『チェンソーマン』自体がB級カルト映画『武器人間』から着想を得ているのは有名な話で、レゼを追撃するビームは『シャークネード』、敵に奇襲されたマキマが呪詛でやり返すシーンは『哭声』のオマージュでした。

登場人物が映画を観たり撮ったりするエピソードが多いのも特徴で、5巻ではマキマがデンジを誘い、夜0時までぶっ通しで映画館を梯子する耐久デートを敢行。

されど単なる箸休め回にとどまらず、キャラクターの核となる考え方や人生観、心情や関係性の変化を、映画談義に絡めて掘り下げました。

この時交わした何気ない会話がラストバトルにてデンジが言及する「クソ映画のない世界」の伏線になっているのも憎いですね。

初期作『ファイアパンチ』に登場するトガタは、自主製作映画の完成に命を賭け、主人公・アグニのドキュメンタリーを撮影。『さよなら絵梨』の主人公も、ミステリアスな同級生をヒロインに据えた映画を撮っています。

先行作へのリスペクトに裏打ちされたオマージュやキャラクターの内面にまで突っ込む映画トークは、マニアの心をがっちり掴むことに成功しました。

 

イカレた主人公がまきちらす、イカした迷ゼリフに痺れる

 

藤本タツキ先生作品を語る上で外せないのがエキセントリックなキャラクター。

苦労性兄貴肌イケメン・早川アキや艶ぼくろがセクシーな地雷系男子・吉田ヒロフミ他、強くてカッコイイ女性陣や異形頭の人外枠も揃っています。

『チェンソーマン』のデンジは極貧家庭で生まれ育ち、亡き父が作った借金返済の為に臓器を売っていました。夢は食パンにジャムを塗って食べること。

のちにマキマにスカウトされますが、それ以前から死と隣り合わせのサバイバルをしてきた彼は、常にリビドー全開で生きていると言っても過言ではありません。

 

2巻では世界征服の野望を掲げるヒルの悪魔や、家族の復讐を誓った先輩・早川アキに対し

 

“みんな偉い夢持ってていいなァ!! じゃあ夢バトルしようぜ! 夢バトル!!”(デンジ)

 

とブチギレ。

3巻ではわざと永遠の悪魔に食われ、不眠不休で体内を切り刻んで自殺に追い込む、ゲスの極みの発想で勝利をおさめています。

“テメエが俺に切られて血ィ流して!俺がテメエの血飲んで回復…!永久機関が完成しちまったなアア~!!これでノーベル賞は俺んモンだぜ~!!”(デンジ)

 

徹頭徹尾頭が悪すぎるダーティーな言動が、最高に最低で痛快ですね! 

シリアスとギャグの絶妙な緩急もまた、『チェンソーマン』の見所です。

アキがサムライソードを捕まえた際は、金玉を蹴ってより大きな悲鳴を上げさせた方が勝ちと、最低な勝負を持ちかけていました。

 

命が軽い!息継ぐ間もなく畳みかける衝撃展開

 

読み切り『ルックバック』は藤野と京本のコンビがプロ漫画家を目指すストーリー。物語は2人の小学生時代から始まり、進路が分かれるまでを丁寧に描きつつ終盤で衝撃展開を迎えて度肝を抜きます。

 

※以下、ネタバレあり※

 

ある日のこと、美大で連続殺傷事件が発生。犯人は美大コンプレックスをこじらせた異常者で、京本は最初の犠牲者でした。

理不尽極まる親友の死にショックをうけた藤野は葬式後に京本の家を訪ね、呆然と部屋の前に立ち尽くしました。

ここで唐突な場面転換。

京本の才能に絶望して小学生の頃に筆を折った藤野が、美大に行った京本を偶然助ける、IFの未来が描かれていきます。

一連の描写はタイムリープで分岐したパラレルワールドとも藤野の妄想とも解釈でき、読者の間でも意見が分かれ、さまざまな考察が飛び交いました。

藤本タツキ先生作品にはショッキングな展開は付き物。主人公に近しい人物でも簡単に命を落とすのは言うに及ばず、付き合いが長いキャラほどトラウマになる死に方をするため、時限爆弾のリミットを見守るようなハラハラドキドキが持続します。

鬱展開に耐性があると自負する方は、藤野と京本の友情の深まりや早川家の絆を丁寧に描いた後、全部ひっくり返してめちゃくちゃにする、人の心がないストーリーテリングに翻弄されてください。

『チェンソーマン』9巻ではマキマがラスボスと発覚。家族の仇である銃の悪魔と融合させられたアキが大量虐殺を行い、被災者に祭り上げられたデンジに討たれる最悪の鬱展開でもって、早川家の日常に癒されていた読者の心をへし折りました。

ドライな作風で一貫してメインとモブを区別しない究極の公平性で、キャラクターの命の軽さを強調します。

 

 

エモーショナルな演出に心震える

 

尖った作風ばかり注目を集めがちな藤本タツキですが、エモい演出も天才的。

それが顕著なのがレゼ編で、薄幸のヒロイン・レゼとデンジの悲恋を描いたエピソードは、格別切ない余韻と完成度の高さでもって評価されました。

『ルックバック』『さよなら絵梨』も同上。

前者は特に切ない傾向が強く、主人公・藤野の名前は作者のペンネーム、相方・京本の名前は京都アニメーション由来と言われています。

即ち『ルックバック』とは、京アニ放火事件の犠牲者に捧げるレクイエムであり、被害者やその関係者、および京アニを愛する全てのファンに贈る、救済装置としてのフィクションだと一部では考えられています。

 

まとめ

ライン超えスレスレの映画のパロディや無軌道な暴れっぷりが気持ちいいからこそ、事切れる間際に「ある真実」を告げたレゼや、銃の悪魔=アキが雪合戦を夢見るシーンの、切ない美しさが際立ちます。

現実世界が舞台の『ルックバック』や『さよなら絵梨』でさえ、否応なく身近な人間の死が訪れ、喪失の受容過程と向き合わざるを得ません。

ド派手なバイオレンスとイノセンスなモノローグの温度感も、藤本タツキ先生作品の醍醐味ですね。

 

以上、藤本タツキ先生の魅力をご紹介しました。まだ作品を読んでない方はぜひ、読んで藤本ワールドに触れてみてくださいね!

 

(出典:チェンソーマン情報局

©藤本タツキ/集英社

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